弦楽四重奏曲 第1番 第2楽章 構造分析

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この曲は、弦楽四重奏曲にとっては珍しいワルツの構造に則り制作されました。
ワルツとは本来舞踏会の為の音楽であり、その為ある種の豪華さが求められました。
小規模のダンスにおいて音楽が求められた場合(それがワルツでも)
それはピアノにより奏でられていたのです。


この弦楽四重奏曲はワルツマナーに従っています。
それはウェーバーの舞踏への歓惑により作られ、
ヨハン・シュトラウス(父)により完成されました。


構造としては、
曲の始めに、ダンスを予感させる4/4拍子に依る序曲が奏でられます。
その後、3/4拍子であるワルツが始まります。


このワルツは数小節からなるもので、それを数回繰り返し1つのワルツとしています。
これを小ワルツといい、複数の小ワルツにより1つの曲として纏められているのです。
複数の小ワルツの最後には、一番印象的である小ワルツが再び繰り返され、曲が締めくくられます。


その小ワルツはワルツの作曲家、
そしてダンス狂(それは当時のウィーン市民のほぼ全てを指す)達により、
「目玉商品」と呼ばれていました。
(ここからワルツの商品価値
 今ではチャートにより語られるポップスと呼ばれる音楽との相似を語る事も可能ですが
 楽曲分析とは話しが逸れてしまう為、オミットします)


場合によっては曲を締めくくる専門の、結尾部を持つ曲も存在しています。







以下、弦楽四重奏曲 第1番 第2楽章 ワルツ の楽曲分析です。







この楽曲は、
序奏、
小ワルツ1、2、3、4、5、6、7(小ワルツ2と同じ)、8(終結尾)
により構成されています。







序奏
《序奏 立ち上る白/Rising white》(0:00〜2:17)
《或るいは — 夜の鳥/Birds appear at night)》


BPM105 変ホ長調


序奏はまだワルツに在らず4/4拍子であり、
和声的な進行は
E♭M→CM→E
となっている


ゆったりとしたチェロのロングトーンで始まる。
繰り返される始めの3音は、
ベートヴェンの弦楽四重奏曲第8番の第2楽章の第1主題から取られている。
何かを予感させる始めの3音がクレッシェンドにより徐々に大きくなり、変化をし、
それが数回繰り返され、最後は伝統的な和声進行により序奏が締めくくられる。







小ワルツ1
《ワルツ1 回想 メリーゴーランド/Recollection Merry-go-roundl》(2:17〜2:45)
《或るいは —スペクターとキツセ/Spector and Kitsuse 》


BPM130 調 変ホ


ここからリズムが3/4拍子になり、ワルツが展開される。


和声進行は、
E♭7→Fm7→B♭7→F/B♭/E♭M

ヴァイオリンの上昇音形がワルツの始まりを告げる。
このワルツではチェロがボウではなくピツィカートで弾かれる。







小ワルツ2
《ワルツ2 引力(魅力)/Gravitation(Charm)》(2:45〜3:33)
《或るいは —如何にして株の取引をするか/How to Trade in Stocks》


BPM110 調 ヘ

伸びやかなメロディーの中で、
部分的な反復がそれぞれの楽器のパートにずれて現れる。
ベートヴェンのピアノソノタ第8番 ハ短調 第二楽章 (悲愴)の主題の変奏。







小ワルツ3
《ワルツ3 かっこう(女性)/cuckoo(Female)》(3:33〜4:14)
《或るいは —ジョルジュ・キュヴィエ/Georges・Cuvier》


BPM140 調 変ほ長調


繰り返される2音はA.H.ホフマン・フォン・ファラースレーベンにより作詞された、
ドイツ民謡の「かっこう」から取られている。
ここでもこの2音は鳥の鳴き声として表現される。
チェロ&ヴィオラとヴァイオリンの音高の交差。







小ワルツ4
《ワルツ4 野うさぎ(男性)/Jackrabbit(Male)》(4:14〜5:02)
《或るいは —壁の中に消える女たち/Women who disappear in wall》


BPM145 調 ト長調


素早い速度で繰り返されるメロディーの
後ろの11の音符(休符含む)により構成される旋律は、
日本の唱歌「ふるさと」から取れれている。
繰り返されるメロディーの間に挿入されるブレイクが特徴。







小ワルツ5
《ワルツ5 感傷的な安心/Sentimental Safety》(5:02〜5;54)
《或るいは —毒を盛られた17人のイギリス人/17 British people were poisoned》


BPM110 調 変ホ短調


ここで曲の速度が一旦落ちる。
主調が変ホ長調で在るのに対し、
ここでは同じ調でありながらも短調による旋律が演奏される。
感傷的な安定の表現。







小ワルツ6
《ワルツ6 無題/Untitled》(5;54〜9:22)
《或るいは —教養の再放送/Repeat of education》


この楽曲において最長の長さを持つワルツ6は、
ワルツの途中で1度の速度変更と、2つの調の変更がある。
それぞれをワルツ6(その1、その2、その3)と3つに分ける。


 ワルツ6 その1
 BPM120 調 ハ短調

 ここでは和声進行により場が支配されている。
 進行は以下の通り。


 Cm7→Dm7/Am7(♭13)→DM7→DM7→Edim→
 Gm7(♭5)/Cm7(♭13)→Fm7→Fm7→Gm7→Cm7→
 D♭M7→Edim→Fm7(♭5)→B♭m7(♭13)

 不機嫌な旋律から始まり、徐々に明るいメロディーに変化して行くも、
 それは必ずしも明確ではない。



 ワルツ6 その2
 BPM125 調 変ホ短調


 ヴィオラが単独でリズムを奏でた後、楽曲の速度が僅かに上がる。
 調の1度目の変更。
 安定感のある優しい旋律が、
 途中に挿入されるヴァイオリンの上昇音形を挟み2度繰り返される。



 ワルツ6 その3
 BPM125 調 変ト長調


 楽曲の速度は変更されないが、2度目の調の変更がある。
 ここではしばらく 変ト長調 の安定した上昇する旋律が繰り返されるが、
 その後、再び和声進行の支配が強くなる。
 進行は以下の通り。


 G♭M7×9小節→EMm7×4小節→
 D♭M7→Edim→E♭M7→Fdim→GM7→C7(13)→EM7


 ここでは全ての明るさと暗さ、秩序と混乱が曖昧になっている。







小ワルツ7
《ワルツ7(ワルツ2の繰り返し) 引力(魅力)/Gravitation(Charm) 》(9:23〜10:07)
《或るいは —無限の想像力の先に在るのは沈黙/Silence beyond imagination》


BPM130 調 変ほ長調


ワルツ2の繰り返しであるが、
BPMが110であったのに対し、ここではBPMが130と演奏速度が上がっている。
その他はワルツ2と同じ。







小ワルツ8
《ワルツ8 指す光(序奏コーダ)/Indicated Light(Intro coda) 》(10:07〜10:56)
《或るいは —ゲオルク・ジンメル/Georg Simmel》


BPM125 調 ヘ長調


この楽曲の結尾部(コーダ)であり、
これによりこの楽曲は終わりを告げる。
4/4拍子で演奏された序奏の変奏であり、
それをワルツのリズムである3/4拍子に変更し演奏されている。
また調も変ホ長調であったのに対し、ここではヘ長調へと変更されている。


最後は伝統的な和声進行で締めくくられる。








弦楽四重奏曲は大抵の場合、ソナタにより構成されています。
それは通常4曲からなり、
第1楽章(急)急速な音楽
第2楽章(緩)緩やかな音楽
第3楽章(舞)踊りの為の音楽
第4楽章(急)急速な音楽
となっています。


この弦楽四重奏曲第1番では
第1楽章(落陽)が(急)にあたり、
この第2楽章(ワルツ)は(緩)にあたります。
ワルツとは過去踊る為の音楽でしたが、
ショパンの登場と彼の作品の完成以降、必ずしも踊る為の物ではなくなったのです。





次作は第3楽章(舞)であるスケルツォ

「(死せる詩人をはこぶ)ケンタウルス」を予定しています。