弦楽四重奏曲 第1番 第1楽章 落陽


ベルギーの国際作曲コンクールに楽譜を送ろうと思ったら
今年はウインドアンサンブル(吹奏楽団)を使った作品のみだったでござるの巻
国際コンクールなんだから、そういうのはせめて英語で書いておけよ……
ベルギー語とかで書かれてもわからねーよ……
俺がチョコレート大好きだからって甘く見やがって!(チョコだけに、ヒュー)
http://www.harelbeke.be/contest






【イントロダクション】


String Quartet No.1 1st Movement Setting Sun
弦楽四重奏曲 第1番 第1楽章 落陽


夕日は沈む、というが、あの現象に"沈む"と名を付けたのは
大地や海や山々に太陽が消えるという現実的出来事以外に
夕日を見ている者の心象も含めてと"沈む"と付けたに違いない



この曲を以下の人々と物々に捧げます


モーツァルト
・ベートーベン
シューベルト
・ラーズクリーズ
・チョコレートタルト(http://www.basel.co.jp/v_items.htm
・イチゴのシフォンケーキ
・レアチーズケーキ
・フルーツのショートケーキ
・3種ナッツのキャラメルタルト
・渋皮栗のタルト
・マイハニー
・ロールケーキ
・フレンチトースト3枚と半分
・豆乳と粒あん今川焼、各一個づつ
・コーヒー/ミカン/アンコ/味のあんこ玉、各一個づつ
・3杯の豚骨ラーメン
・3つのマックチキン
マックコーヒー3杯
発泡酒21缶
・KIRINラガー1缶
カールスバーグ1缶
・安ワイン1瓶
・その他種種の俺の手料理
・うっかり手に入れた派手なシルバーリングとネックレス
・五本の白黄色いバラ
・先週誕生日を迎えたマイマザー


【1分で読める簡単な説明】


使用楽器はヴァイオリン×2 ヴィオラ×1 チェロ×1


弦楽四重奏曲は大抵、急、緩、舞、急、という4楽章からなっています
その内の第1楽章は(楽曲の速度が)"急"でありソナタ形式で書かれています


ソナタ、というのは音楽に詳しくない方でも
ドラマやゲームで聴いた事があるのではないでしょうか
タイトルになっていたり魔法になっていたり
そういった曲が挿入歌になっていたり


ソナタ形式は古くからある音楽の表現の仕方の1つです
以下ではそのソナタ形式とこの曲の解説をしたいと思います


詳しく文字数を多くして書いても読む時間がないという方もいるとおもいます
しかし私には文字数を多くして書きたいという気持ち
(というか悪い癖・笑)があるので
解説レベルを3つに分けたいと思います



○「初級」サクサクコース
  ソナタ形式の簡単な解説、読んで2.3分も掛からない
  簡潔な説明ですが簡潔が故、多くを省いてあります
  (しかし本質は書いてありますぞ)


☆「中級」本格コース
  ソナタ形式の(音楽の専門用語を不使用の)分かり易い説明を
  この曲を参考にして説明して行きます


★「上級」専門家コース
  こちらはソナタ形式の説明は無く
  音楽用語や和音表記を使った、この楽曲の説明になります
  楽譜に触った事の無い人にはチンプンカンプンでしょう


好きなのを(出来ればこの曲を聴きながら)選んで読んでね
(推奨は中級コースです、
 これさえ読めばモーツァルトな古典派もラフマニノフ交響曲も余裕ですよ、
 ここで読んでおけば一生ものですぞ、がはははは)








○「初級」


《一:序奏部》
1序奏:曲のイントロ(0:00~0:36)


《二:提示部》(0:37~3:23)
2 第1主題:曲の主役となるメロディ、の1つ目です(0:37~1:23)
3 経過句:次へのつなぎ(スムーズに移動する為の準備)(1:24~2:08) 
4 第2主題:曲の主役となるメロディ、の2つ目です(2:09~3:10)
      大抵は第1主題とリズムやメロディーが正反対
     (この2つの主題の対立がソナタ形式の大切な所です)
5 小結尾:提示部の終わり、しっかり締める(3:11~3:23) 


《三:展開部》(3:24~5:16)
6 展開部:曲が展開します、第1主題と第2主題が戦ったり、混ざったり
     ソナタ形式の見せ場です(3:24~4:53)
7 小結尾:再現部の終わり、緩やかに締めます、あまり終わりがわかりません(4:53~5:16)


《四:再現部》(5:17~7:14)
8 第1主題:再び第1主題を演奏します
      しかし、ちょっと、いやだいぶ変えてあります(5:17~6;01)
9 第2主題:再び第2主題を演奏します
      しかし第1主題と似た様な音でメロディーを作っているため
      提示部や展開部であった対立がありません
      展開部で戦った2つの主題は仲良くなりました(6:02~7:14)


《五:終結部》(7:15~8:22)
10 終結部:曲全体の終わりです
     今までの小結尾とは違い、大規模で立派なちゃんとしたフィナーレです



ここまで読んで分からない事や質問があったら
次の「中級」コースを読んで下さい






☆「中級」



《一:序奏部》(0:00~0:36)


1序奏(0:00~0:36)


所謂イントロ
本編に入る前の準備、または本編の予告を表す


この曲では……
序奏は調(キー)がない
つまり不協和音で作ら、不安定/カオスを出している


調(キー)とは……
カラオケで歌う曲を自分の声域に合わせ歌い易くする為に
リモコンなどで上げ下げするアレである
単純な音の高さ以外に曲の雰囲気も左右するので
なんとなくの曲の雰囲気と思えば良く
調が変る(これを"転調"という)事は雰囲気が変る事と思えば良い




《二:提示部》(0:37~3:23)


2 第1主題 (0:37~1:23)


言葉の通り、1つ目の主題(曲全体のテーマとなるメロディー)
多くのソナタ形式において力が入れられる場所
また、多くの有名なメロディーがあるのもここである


この曲では……
ハ短調(ドを中心とする暗(あん)な雰囲気/Cマイナー)
スペインの民族音楽であるフラメンコで使用されるコード進行(メロディーの土台)と
アルゼンチの民俗音楽であるタンゴのリズムを組み合わせている
細かく刻まれるリズムと焦燥感と激しさのメロディー



3 経過句 (1:24~2:08) 


次に待ち受けているのは第2主題であるが
第1主題と第2主題は調が違っている(転調)
それをスムーズに行う為の橋渡し役/ハシゴが経過句である


この曲では……
第2主題に繋ぐ為の細かい転調が行われている
また、他の部分はコード進行に沿って進行して行くが
この部分ではバロックで有名なバッハなどで同じみの対位法(たいいほう)が
使われている


対位法とは……
複数の声部(メロディーが)独立しながらも調和し進行してく音楽の在り方で
セーターなどの編み物や髪の毛の三つ編みに例えても良い
一人の主役を目立たす事を目的としたコード進行的音楽に対比する
全員が主役の対位法である



4 第2主題 (2:09~3:10)


言葉の通り、曲全体のテーマとなるメロディーの2つ目
第1主題とは対立するメロディーが使われる
第1主題が明るければ第2主題は暗く(その逆も在り)
第1主題が激しければ第2主題はおおらかである(もちろん、その逆も在る)


この2つの主題(メロディー)の対立こそがソナタ形式の核であり
曲が進行して行く動機である
思った人もいるだろうがそうこれは
曲を"お話"や"ストーリー"に変えても成り立つ形式である
お話における善と悪との対立や
好きと嫌い(または振り向いてくれない)の対立と変らない
またお話がそうであるように
この後、第1主題と第2主題の対立は解決される
お互いが調和したり、片方がもう片方を倒すのだ


古代から(それこそ神話から)現在でも
反する物の対立とその解決を主題にしたお話が多く作られているが
それは、それを多くの人が望むと共に、その方がお話を作り易いからである
音楽でも変らずに、この形式で多くの作品と名曲が作られてきた
この形式をつくったのはハイドンであり
それをモーツァルトとベートーベンが発展させて行く事になる
音楽の授業でも習った古典派の時代(18世紀)の事であり
お話に比べると音楽にこの形式が導入されたのは遅い
ハイドンモーツァルト→ベートーベンの順であり
 それぞれが上の世代に憧れを持っている、この三人は音楽的親子である)



この曲では……
第1主題のハ短調(ドを中心とする暗(あん)な雰囲気/Cマイナー)に対比して
第2主題はイ長調(ラを中心とした明(めい)な雰囲気/Aメジャー)で作られている
また、第1主題は細かいリズムの激しさであったが
第2主題はおおらかなリズムであり
ファンファーレとその後の調和を表している



5 小結尾 (3:11~3:23) 



”結尾”とある通りシメであり、その手前に"小"と付くので小さなシメである
第1主題、経過句、第2主題と続いた《提示部》の終わりである
大抵は数小節で終わる
また"提示する部分"という性質のため、終わりがハッキリと示されている


この後は《再現部》と続く訳だが
古典的なソナタ形式(つまり本来の形) ではこの後また第1主題へと戻る
主題とは名の通りお話でいうなら主人公である
とりあえず主人公を覚えてもらわなくてはお話が進むまない
その為にもう一度主題を"提示"する《提示部》を繰り返すのである


しかし、レコードやCDが誕生し、それに音楽が録音される様になると
レコードやCDと云う記録媒体の情報量の都合上、この繰り返しは削除される様になる
だが、近年ではこの繰り返しが再び取り入れられている


この曲では……
youtubeという動画サイトのアップロードの動画時間制限の為
繰り返しは削除されている
(音楽とは多く時代の複雑な事情に左右されるものだ)


この曲でも小結尾は(第二主題のメロディーを取りながら)短く
第2主題の明るさを引きづりながら終わりがとてもはっきりしている




《三:展開部》(3:24~5:16)


6 展開部 (3:24~4:53)


展開部とはこれまた名の通り曲が展開(変化/発展/破滅)していく部分である
今まで出て来たメロディーやコード進行が形を変えて出てくる事が多く
第1主題と第2主題が絡み合ったり、まさに対立したりする
(その為に主題をよく覚えてもらう必用があるのだ、
 ここが提示部の繰り返しの必要性へとつながる)
または、第3主題と呼ぶべき物が登場する事もある


基本、作家がもっとも手によりをかけるのがこの部分であり
労作と言われる事が多い


この曲では……
第1主題のコード進行を利用しながらも
第2主題のおおらかさをもった、別のメロディーが登場する
ゆっくりと流れる時間と暗さが示される、陽は完璧に沈んで行く



7 小結尾 (4:53~5:16)


《提示部》のそれと同じく小さなシメだが
それと比べるとこちらは終わりが曖昧な物が多い
なだらかに次の《再現部》へとつながっていく


この曲では……
第1ヴァイオリンとヴィオラ
第2ヴァイオリンとチェロという二組のコンビが
それぞれ別々の転調を繰り返し、メロディーを奏で
不安感と不安定を増したまま次の《再現部》へと進行する




《四:再現部》(5:17~7:14)


8 第1主題 (5:17~6;01)


《再現部》では再び《提示部》を繰り返す
しかし、若干形が変化している


この曲では……
第1主題は《提示部》のそれと比べて激しさが増す
《展開部》の小結尾の不安さを振り払うが、より暗度は増して行く
闇がそこにある



9 第2主題 (6:02~7:14)


《再現部》の最大の特徴は
対立していた2つの主題の解決である、片方が片方に歩み寄るのだ
お話ならば善が悪を滅ぼす、または悪が浄化されていく様なものだ(その逆もある)
歩み寄り、の方法として、音楽であるソナタ形式は調(キー)の一致で対処する
その為、《提示部》で第1主題と第2主題をスムーズに繋ぐ役割であった"経過句"が
この《再現部》では無くなっている
あったとしてもより小さい物になる


この曲では……
《提示部》において
イ長調(ラを中心とした"明(めい)な雰囲気"/Aメジャー)で
作られていた第2主題は
ここ《再現部》では、第1主題と同じ調
ハ短調(ドを中心とする"暗(あん)な雰囲気"/Cマイナー)へと変更されている
お話にするならば善が悪との対立後、悪に染まる様な展開になる


しかし第2主題の持つメロディーの穏やかさは変らない
闇に同化した第2主題は、ファンファーレの後、闇の中の光を発する
暗闇は必ずしも恐ろしい物ではなかった




《五:終結部》(7:15~8:22)


10 終結部 (7:15~8:22)


名前の通り曲のシメである
今までの小結尾とは違い、曲全体の締めくくりの為、大規模で立派な物が多い
ここまでの演奏時間と同じくらいの長さの終結部を持つ作品もある
モーツァルトの作品などではここが"これでもか!"とクドく繰り返される事が多い


この曲では……
第2主題のおだやかさより
もっと伸びやかにメロディーは発展し、澄んだ音の上昇が繰り返される
暗闇からより大きな光が表れ広がり、第1楽章は幕を閉じる




ここまで読んで分からない事や質問があったら
次の「上級」コースを読むか、質問して頂ければ私が答えます







★「上級」


《一:序奏》


1 序奏
第1ヴァイオリン イ(ラ/A)
第2ヴァイオリン 変ホ(ミ♭/E♭)
ヴィオラ     変イ(ラ♭/A♭)
チェロ      ハ(ド/C)



で始まり、またそれを中心とした不協和音のメロディーで展開されていく
途中一瞬Cメジャーのコードを各楽器が合わさり奏でるが
その部分が一番不安定感を感じる
2度現れる、3三拍子のキメは暴力的に



《二:提示部》


2 第1楽章 ハ短調
フラメンコに定番のコード進行
Emi→DMA→CMA→B7 を
ハ短調に転調させ
Cmi→B♭MA→A♭→G7 としている


リズムはタンゴ、それもアストル・ピアソラの3.3.2のリズムで展開している
ラテン音楽/またラテンの国々が持つ、鬱の一形態である"サウダージ"を
利用しながらも、暑さと湿気の国とは別の凍える様な空気を狙う


3 経過句 転調
第2ヴァイオリンのソロから4つの楽器が旋律を奏でる部分からが
対位法を使用してる
1小節づつ主旋律を各楽器が交代し、それの対旋律を他が奏でる
そのため対位法であるが、和声的進行も持たせている
これは第2主題へとスムーズに転調させる為である


ハ(C)→ト(G)→ニ(D)→イ(A) と
五度づつ上に上がる転調になっている


4 第2主題 イ長調
チェロのソロから始まる
そこから各楽器が合奏する部分で4小節だけ対位法が使用されている
ここでは第1ヴァイオリンが主旋律を奏で他が対旋律となる


その後、各楽器の音高上昇形→ファンファーレとなり
第2ヴァイリンとチェロが穏やかなメロディーを奏でる


AMA(イ長調)→Gmi(ト短調)→EMA(ホ長調)→AMA(イ長調)


5 小結尾
ここでは第2主題を利用している
第1ヴァイオリンとヴィオラが旋律に加わり
より大きく、堂々と主題が演奏され、提示部が終わる



《三:展開部》


6 展開部 ハ短調
第1主題のコード進行を利用しながら別の旋律を繰り返し奏でる
最低音を受け持つチェロが変化し、その変化が徐々に各楽器に広がり
不協和音も混ぜ、不安定感を広げて行く
チェロはどんどんと音高を下げている


7 小結尾
2組のコンビに別れ、別々の転調で2つの旋律が進行し、ハ短調へと向かって行く
第1ヴァイオリンとヴィオラ G♭(変ト)→E♭(変ホ)→F(ヘ)→C(ハ)
第2ヴァイオリンとチェロ A(イ)→G♭(変ト)→E♭(変ホ)→F(ヘ) 

 
輪唱的に第1ヴァイオリン組みを第2ヴァイオリン組みが追う
五度上昇の転調である



《四;再現部》


8 第1主題 ハ短調
提示部の第1主題と同じコード進行であるが
旋律が違っている
タンゴの細かな"つんのめる"リズムは鳴りを潜め
伸びやかに、空間の広さとある種の澄んだ寒さを表現する


9 第2主題 ハ短調
典型的なソナタ形式に法り第2主題と同調になっている
提示部のイ長調からハ短調へ転調
ファンファーレ前の各楽器の音高上昇も手を加えている
対位法の部分も長さを延長
また、その後の旋律も伸びやかな物へと変えている


AMA(イ長調)→Gmi(ト短調)→EMA(ホ長調)→AMA(イ長調)から
Cmi(ハ短調)→B♭(変ロ)→G(ト)→Cmi(ハ短調) へと転調



《五:終結部》


10 終結部 ハ長調
一転して長調
コード進行も変化


CMA(ハ長調)→B♭MA(変ロ長調)→A♭MA(変イ長調)→GMA(ト長調)


そしてそのまま各楽器のロングトーンで終わる





ここまで読んで分からない事や質問があれば答えます