クラウドヘッド+1

生きてたら最悪死ぬ


生きていると、疲労痛風、痔や糖尿、眼精疲労に筋肉痛。
肉体的な病状だけではなく、欝や躁、境界線人格障害
拒食症と潔癖性などの精神疾患。肥満と飢餓、貧困と戦争。
交通事故や殺人に巻き込まれ、最悪の場合、死に至る。



疲労は主に肉体的疲労と精神的な疲労に分けられる。
末梢と中核と区別されるこれに共通の原因はエネルギー不足だ。
エネルギーは口で、歯で食物を噛み砕く事で食道に送られる。


食道は消化器官ではなく、消化器官である胃に食物を送る為のバイパスだ。
ただし、酔った男が/女が内容物を逆流させればバイパスではなくなる。


吐瀉物を喉に詰まらせて生まれたばかりの赤ん坊が死ぬ事がある。
内臓が上手く機能しない老人が死ぬ事がある。酔っぱらいが死ぬ。



嘔吐は、緊急事態を発した胃や十二指腸、
乗り物酔いによる三半規管からの訴え、
脳脊髄液……脳漿(のうしょう)として知られる
アルカリ性の液体の通り道となっている、
脳幹と小脳に挟まれた第四脳室にある化学受容器引き金帯……、
これは血中に存在する毒性の判定と濃度を測る出入国管理人だ。
毒性の物質は「サイトシーイング、ファイブデイズ」の
言葉を持たないので、
出入国管理官を誤摩化す事ができない。
彼、化学受容器引き金帯こと、出入国管理官殿が異常と判断すれば、
すぐさま空港の警備員が呼ばれる。


或は咽頭……これは口腔と食道の中間に存在し、
発語や食物を飲み込む役割を与えられている。
声帯もここにある。空気と固形物を判断する。
彼が異常を訴えれば警備員が呼ばれる。
慣れていない彼女にフェラチオを奥深く、
咽頭まで行えば、すぐさま警備員の出番だ。
男のペニスやジーンズやスラックスが、
汁や血液が交じったせいで酸っぱい臭い吐瀉物まみれになる。
咽頭を鍛えるには強い炭酸を飲ませる事だ。
クラミジアや淋菌が移るのもここだ。



自分が人ごみで嘔吐してしまうのではないかと
不安に駆られる嘔吐恐怖症がある。
不安から吐き気を感じる事がある、
不安で外食出来なくなる事がある。
吐き気を抑える薬がある、
吐き気を誘発させる……催吐薬がある。
催吐薬は延髄の嘔吐中枢を刺激し催吐する。
タバコや薬品の誤飲、
それも嘔吐する際に再び内蔵の粘膜を傷つけない物を
吐かせる為に存在する。
エメチン……トコンシロップ……、
パーキンソン病や勃起不全の治療薬である
アポモルヒネにも嘔吐を誘発する効果はあるが、
現在では使われていない。


誤飲した物によっては牛乳を飲ませた方が良い場合がある。
厚生労働省が発表した、
ある期間内の0歳児に起こった
「家庭内における主な不慮の事故」によれば、
死亡者111人の内、92人が不慮の窒息により死んでいる。


 「(なにか俺を罵っている)」
 「……(もっと罵ってくれ)」
 「(なにか俺を罵っている)」
 「……(俺の鼻水と涙が俺の口に入る。塩漬けの豚の皮の味を思い出す)」



実存主義者のサルトルが嘔吐と云う小説を書いている。
状況に/社会に対して自らのサイコロを振る事が出来ると説いた
彼の主義が効力を無くして久しい。
他人により自己を規定されるてしまう現象から……、
既にある存在から今ある自己を賭け、
新たな自己/存在に向かったとしても、
そこにあるのは新たな構造だ。
存在から新たな存在へという行動こそが構造だ。
人に自由は無い。
自由が無いのだから人は責任を負う事ができない。
神と神から与えられた人間の本質、
という物からの脱却には幾分役に立ったが。


この左目を失い、暗黒神話小説の大家であるラブクラフトと同じ,
イカタコ恐怖症のフランス人教授が書いた、
それがそれである前に、
俺が俺で、お前がお前で、浜辺の小石が浜辺の小石である前に、
それがただ、なんであるか、と定義される前に既にそれが存在している、
という事に怯え、吐き気を及ぼす、
ある人物の伝記を書き上げようとしている研究者の話しは悲劇だ。
それに対して、レヴィナスの絶対的な感知すら出来ない他者の話しは
幾分希望がある。



こうやって嘔吐について、話す事は幾らでもある。
俺は今、自分のO型の血液を口から吐きだしている。
胆汁と酸と一緒に吐き出している。
自分の心境と一緒に吐き出している。



食道の先に繋がるのは倉庫番にして我らの料理人、胃だ。
口で噛み砕かれた食物は、約30秒程で食道から胃に送られる。





《つづく》



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